『流転の地球』は日本が完全に中国に負けていることを如実に示していた

SFファンにとって、Netflixで後悔された『流転の地球』は衝撃でしかなかった。ハリウッドにも負けず劣らずのクオリティ・圧倒的な世界観の本作は、中国という国の勢いを現わしていると言っても過言ではない。

あらすじ

地球各地で異常気象や天変地異が起こるなか、その原因は、太陽が老化・膨張し赤色巨星化をたどるためと判明。太陽系そのものが300年ほどで消滅する危機に、世界の国々は団結して「地球連合政府」を設立。

政府は地球を太陽系外に脱出させ、2500年かけて4.2光年離れた別の星系軌道に載せる「流転の地球」計画を決定。

各地に巨大な「地球エンジン」1万基を建設し、太陽系脱出の推力とした。また連合政府は、それと並行して30年かけて巨大な国際宇宙ステーションを建設。ステーションは地球から10万キロの距離を保ち計画のナビゲートを行うこととした。

地球が太陽系から離れたことで荒廃した地表に住めなくなった人々は、政府が「地球エンジン」の地下に建設した都市に暮らし、2500年後の新天地を待ち望むのであった。流転の地球-Wikipedia


本当の意味で「宇宙船地球号」

この映画を観ると、まずスケールの大きさに圧倒される。「え、これハリウッド映画だったっけ?」と思った俺は一回視聴止めてググったくらい。こう思った要因は設定の壮大さにある。

前述のあらすじにもある通り、「地球エンジン」と呼ばれる推力によって太陽系からの脱出を試みるその様は、想像よりも圧倒される。いやいや、地球の自転止めたら停止時のGで人類吹っ飛ぶやろ…と突っ込みを入れたくなるのがSFファンの性なのだが、本作はこの点も見事に描いている。ギブスンもにっこり

重核融合エンジンは石を燃料として推進力を得ているというのだが(そんなに石あるか?とも思ったが、地殻削ってるとしたらまぁイケる)、基本的に人間は地表ではこの地球エンジンのメンテナンスと燃料集めに追われている。その地表での様子が完全に氷河期。そうだね。分かってる。自転止めただけでも太陽に背中向けた側は生命存続不可能の氷の世界になるからな(北極と南極が繋がるイメージ)。だから、本作内での人類は地下に生活拠点を移している。この無理のないSF設定には俺もにっこり

この宇宙船地球号が、予期せぬ事故によって木星の方にハンドル切っちゃって、ぶつかる死ぬどうしようってのがメイン危機のストーリー。

 

 

アメリカ様に無いアジアの価値観

ハリウッド本家の終末系ってさ、ある種ステレオタイプ化してると俺は思うんだよ。「人類滅ぶってよ!」「マジかよ!何とかしようぜ!家族を死なせる訳にはいかない!」「立ち上がれ人類ウォオオ独立記念日じゃァアア」 ←ここまでテンプレ。いや、それが王道で観ててて最高に気持ち良いんだけどさ。

でも『流転の地球』では違った。一言で言えば”東洋の価値観で観る世界の終末”だ。俺たち日本人も、古くから盛者必衰の理を”あはれ”として受け入れてきたDNAが入ってるから何となく想像できると思うんだけど。「地球終わるってよ」「マジかよどうするん?」「死に方とか考えた方が良いかなぁ」「家族が満足して死ねるならそれで良い」「命日に寝る最高のベッド買おうぜ」 と言った人々が終末が近づくにつれて出てくる。”どう生きるか”よりも”どう生きたか”の方に先に視点を合わせる。ちなみに上の会話例は完全に俺の妄想であって、作中ではもっと切迫した様子の中国人が”いとをかし”の精神で絶滅に向き合ってるから安心してくれ

アジア人って、歴史柄なのか土地への執着が強い気がするのは俺だけ? あと正常性バイアスも一定数機能するよね。皆焦ってるけど、もう諦めて楽しもうぜ。あと最後は家で死にたい、的な。対して西洋文化は、一致団結すれば怖くない思想が強い。同じ終末系というジャンルでも、この違いを見事に表現したのが本作だということ。この東洋的思想が盛り上がりポイントに上手く組み込まれてるのも◎。

流転の地球 ハン・ドゥオドゥオ
ディフォルメフィギュア

まとめ

原作者のケン・リュウ氏が明示したアジア的思想をこのクオリティで映像化できたのは今の時代とても大きい。確立された正義に正解はなく、死生観は人類それぞれということを世界に発信できた。

また、同時にこの価値観を発信したのが日本ではなく中国であるというところも大きなマークポイント(ハイここ、テスト出まーす)。本来であれば日本こそがその価値を一番理解しているハズなのに、成長しつづける中国が経済力と倫理観を示している本作を観た時に、俺はもう「日本…完全に負けちまってるな…」と思った。”発展途上国は国民のモラルが低い”と言われていた中国がここまで精神的成長を魅せつける作品を作ったとなると、立場は完全に逆転し、逆に日本人が大事にしなくなってきたものを考える機会になってきているのかもしれないとすら思える。

日本のSFにも期待したい。

酒を飲んだテンションで『波よ聞いてくれ』の女性陣について書いたから読んでくれ

2020年4月からアニメがスタートし、その魅力を地上波デジタルの波に乗せて拡散している『波よ聞いてくれ』。この面白さ、本当にもっと多くの人に届けたい。

あらすじ

舞台は北海道サッポロ。主人公の鼓田ミナレは酒場で知り合ったラジオ局員にグチまじりに失恋トークを披露するが、翌日に録音されていたトークがラジオの生放送で流されてしまう。

激高したミナレはラジオ局に突撃するも、ディレクターの口車に乗せられアドリブで自身の恋愛観を叫ぶハメに。

この縁でラジオDJデビューしたミナレを中心に、個性あふれる面々の人生が激しく動き出す。

さあさあ、波よ聞いてくれ!!!引用元:原作1話あらすじ

黙ってればスタイル抜群の金髪美女なのに、口と酒グセの悪さからThe 残念な美人ことミナレ。いきなりラジオパーソナリティとして活躍する(The ラジオ局遊撃隊の)トークスキルとその発想力は素人離れしてて本当に奇抜。ちなみに声優の杉山里穂はリアル北海道出身で今回が主演デビューのガチ美人

舞台となる北海道のローカル感。リアリティ味のあるギャグに全振りしたストーリーだけど、ラジオの収録現場・風景を事細かに描くニッチさは漫画に新しい波を生んだ。こんな人達が実際にいたら面白いなぁと思わずにはいられない、ある種”働く女の子シリーズ”の大人(熟女)版。 [補足: 新宿三丁目にあるスープカレー屋さん「東京ドミニカ」がミナレの働くVoyagerのモデルになっている(北海道じゃない)。]

波よ聞いてくれ(1)
(アフタヌーンコミックス)

ヤバくて良いオンナしかいない

作者:沙村広明さんの、『無限の住人』の頃からの悪癖特徴なんだけど。登場する女性がことごとくヤバい。主人公のミナレのヤバさと魅力はアニメを観れば開始10秒で実感できる。でも他の女性陣も総じて性格・性癖ともに歪みきった女性だということを忘れてはならない。この作品の良さは女性陣にある。原作読者の俺がその魅力の一端を紹介しよう。

 

 

 

鼓田ミナレ

推しも推されぬ主人公。生き意地の悪い女日本代表と言えるその思考回路には毎話感服する。ダメ男を好きになる母性と、抜群の行動力がフュージョンして人生がゴテンクス(失敗)。また、恰幅の良い男が性的に好みで、宗教団体に拉致監禁された時に美少年をハニートラップ役にあてがわれても肉体関係を拒絶する意志の強さを持つ。得意技はフランケンシュタイナー。黙ってれば美人。

 

 

 

南波瑞穂

家賃の払えなくなったミナレを家に泊めてあげるだけでなく、「いつまでもここに居れば良いじゃないですか」と甘言を囁く天使。しかしてその実態は構成作家(官能小説家)の久連木に高校時代から想いを寄せて同じ職場に就職を果たす対戦車地雷。現実にいたら一番可愛いけど一番地雷。また、精神的に思い詰めると包丁を備前長船なみの切れ味になるまで研ぐ(地雷)。でももし付き合ってたら年内にプロポーズする。普通に可愛い女性。

 

 

 

城華マキエ

交通事故を起こした兄の責任を取ってVoyagerで無償労働することになる黒髪の麗人。過保護な兄の束縛から逃れることができ、人生の喜びを見出だしつつあるが、実は卓越したラジオはがき職人。この綺麗な容姿で「網走刑務所の囚人の作った家具だけでトータルコーディネート」「膣をどこかに忘れてきた」というネタを投稿する類まれなるセンスを有する引き籠り。『無限の住人』に登場した作中最強の剣客ではない。

 

 

 

芽代まどか

ミナレの甲高い声色とは違い、人を安心させるリアジェリング・ウィスパーボイスの持ち主。アニメではカット? されてたけど、ミナレに対して対抗心のような興味を示しまくって公園のベンチで日本酒飲みを強制してくる可愛いババァ。突然パンチの聞いた酔いどれ説教されたミナレも思わず幣舞橋の銅像」と貧乳具合をディスるも、翌日にはこれを自虐ネタとして口撃してくるあたり百戦錬磨の性格悪さ。正直アニメではその魅力はまだ一切魅せれてない(二期フラグ?)黙ってればスレンダー美人。

 

 

まとめ

基本的に皆、黙ってれば美人なんだよ。というか、現実でも結構そうだよ。女性というものは可愛い存在だ。でも、男が真に惚れるのはそこじゃないからな。結婚という悪徳契約交わしてでも一緒に居たいと思える女性は、総じて可愛さ+αを持っているワケで。だからこそ一緒に居たくなる。この作品に出てくる女性キャラは、皆その辺を兼ね備えていると言っても良いような気がしてきたと思ったら酩酊して頭が痛いからたぶん酒のせいで思考回路がまとまってないんだろう。忘れて

ちなみに、アニメでどこまでやるのかってのは今後この作品に大きく関わってくると思う。ぶっちゃけ宗教団体編は「ラジオ要素どこいった!?」ってなるけど、一番面白いからやって欲しいな。(でも尺的に無理だな)。山中で消えた律子(天井裏で死んでなかった人)も出てくるし。官能小説家・ミナレ・瑞穂の大冒険でようやく一区切りする感あるしな。あとこのエピソードの終わり方が神

アニメが面白いと思った人は原作もぜひ。

悪魔×悪霊×化物が襲ってきた『死霊館 エンフィールド事件』が実話な件

『死霊館』シリーズが好き過ぎる。”史上最長に続いたポルターガイスト現象”と社会的に記録されている「エンフィールド事件」において、ウォーレン夫妻が立ち向かった悪魔・悪霊・化物。コレが実話をもとに作られていると言うのがまた、好き過ぎる。

あらすじ

ロンドン北部に位置するエンフィールドで、4人の子供とシングルマザーの家族は、正体不明の音やひとりでに動く家具が襲ってくるなど説明のつかない数々の現象に悩まされていた。

助けを求められた心霊研究家のウォーレン夫妻(パトリック・ウィルソン、ヴェラ・ファーミガ)は、一家を苦しめる恐怖の元凶を探るため彼らの家に向かう。

幾多の事件を解決に導いた夫妻ですら、その家の邪悪な闇に危機感を抱き……。シネマトゥデイ

『死霊館』シリーズ時系列

①『死霊館のシスター』(2018)
②『アナベル 死霊人形の誕生』(2017)
③『アナベル 死霊館の人形』(2015)
④『アナベル 死霊博物館』(2019)
⑤『死霊館』(2013)
⑥『ラ・ヨローナ 泣く女』(2019)
⑦『死霊館 エンフィールド事件』(2016)

上記の通り、実は映画が発表されたのはシリーズ3番目なんだけど、実際に怪現象が起こった時代は一番最近なんだよ。舞台である1977年~1979年、イギリスのエンフィールドで起こった一連の事件は怪奇現象の記録が山のように残ってる。メディアもこぞって問題を取り上げて(一時は子供のイタズラとして総スカン食らったが)、結果的に、ヤバすぎる霊障の数々に科学的な説明が出来な過ぎて社会的に認められたという実話。これが100年前とか1000年前とか現実味の無い遥か昔じゃなくて、極々最近の事ってところに夢がある。

死霊館 エンフィールド事件(吹替版)

 

悪魔×悪霊×化物

悪魔「ヴァラク」

『死霊館のシスター』(原題:THE NUM)でスピンオフ化もされた驚異のシスター(悪魔)、霊圧がグリムジョー位ある。この作品に至っては『サイレント・ヒル』なみに恐怖が襲ってきて「としまえん」のお化け屋敷くらい小便チビりそうになるから是非とも恋人と観て欲しい。

死霊館のシスター(吹替版)

 

悪霊「ビル・ウィルキンス」

被害にあったハーパー家の次女に憑依して、数々の記録媒体に残った伝説的悪霊。実際の記録ではビルだけじゃなくて老女や幼い女の子の霊も目撃されてるけど、一番メディア受けに成功したのがビルおじいちゃん。作中ではヴァラクの傀儡で、実はそんなに悪い奴じゃなかったんじゃないかと仄めかされている。実は一番被害者っぽい。

 

化物「へそ曲がり男」

マザーグースの一節に登場する”背中曲がり男”こと「crooked man」がモデルの化物。作中に登場する3体の中では一番実害が無い(犬に化けて家宅侵入・刺し殺そうとしてくる位)。また、スピンオフ化が決定しており、ファンが多いのも頷ける謎の妖艶さを持っている。俺もぬいぐるみとか欲しい。彼に関しては偶々居合わせたお祭りに参加した感が強いが、ヴァラクに操られてなかったとしたら、それはそれで不思議で怖い存在。

 

次女の特異さが際立つ

なんと同時に3体も襲ってきた「エンフィールド事件」。実際に憑依されたり、触媒になったのはほぼ次女ちゃんだけなんだけど。噂では高位の霊力持ちだったとか…。『ブリーチ』で言うところの織姫。だからこそこんなにたくさん襲ってきたってワケなんだよ。今ごろ三天結盾とか使えるようになってるんだろうな


家族愛こそが闇に対抗する武器

例によって本作でも、悪霊に対抗するには”愛情”が至高の武器という演出がされている。これだから「死霊館」シリーズは止められない。涙と涎が止まらない。勇気がなく、いつも母親に怒られてばかりの末っ子が「コレ食べて元気出して」と心霊現象に意気消沈している母親を気遣う場面。これには辛い中でも、忘れてはいけない大事なものが描かれていた。ジェームズ・ワン監督のホラーに外れ無し

 

まとめ

実話を基にした話っていうのは、得てして地味なモノになりがちなんだけど。『死霊館 エンフィールド事件』はエンターテイメント作品として抜群に良く出来ている。

しかも、ホラーファンにとってこの作品が事実を基にして作られていることは、大きな意味を持ってくる。実際の所どのように除霊が行われたかは定かではないが、「事実は小説より奇なり」という言葉の通りこんなに綺麗にまとまっていなかったのは確かだろう。ただ、2年以上にも及ぶ怪奇現象・メディアバッシングに対して、親子の愛無くしては乗り越えられなかったのは想像に難くない。そこまで想像させることが出来るのはジェームズ・ワン以外には有り得ないと俺は思う。

これからも、愛情の尊さを魅せ続けて欲しい。

鬱上級者がアニメ上級者に観て欲しい鬱アニメ【おすすめ5選/上級者向け】

鬱経験者の俺が自信を持ってオススメする鬱アニメ。

はじめに言っておこう。この記事では『School Days』とか『SHUFFLE!』は取り上げない。一世を風靡したこれらの作品は、俺の中で観ていて当たり前のバイブルだからだ(同じ理由で『魔法少女まどか☆マギカ』『がっこうぐらし!』等も無し)。この記事では、アニメ好きでも意外と観ていない作品をフィーチャーしたい。

『なるたる』(2003)

あらすじ

ある日、祖父母の実家に遊びに来ていた玉依シイナがヒトデのような謎の生き物「ホシ丸」に出会い、またそれがきっかけで「竜の子」、「竜骸」などと呼ばれる謎の存在、そしてそれらと「リンク」することで竜の子たちを操るさまざまな子供たちと出会い、交流を深め、時には戦う事になりながらも成長していくオムニバス形式のファンタジー作品。

ひらがな四文字のアニメは萌え豚御用達だと誰が決めた? 『ぼくらの』作者である鬼頭莫宏と言えば大まかな内容は分かるハズ。作者自身が「当時病んでおり、無意識的に精神状態が反映された」と語る通り、生粋の鬱作品。より社会に対しての怨恨が濃かった時期の作品と言い換えても良い。

軽~いバトル中心のストーリーかと思いきや。物語の途中から少年少女の精神状態・思春期に抱える人間関係の悩みが主題となってくる。その歪曲したジュブナイルに共感したら最後、抜け出せない鬱ラッシュ・マウンテンに乗車完了。シートベルトの準備はOK? むしろこの辺で心にダメージ負うくらいならこの先観ることは不可能なので、途中乗車するなら4話~5話がベストかもしれない。ぜひ心と相談して観てくれ。

 

内容とはかけ離れた陽気OP

このOPが醜悪 !  何故にこんなにも本編とはかけ離れた映像にしたのかは不明。一見すると日常系萌えアニメに分類されるこのOP映像と、日常の中の希望の存在を仄めかす歌詞は多くの視聴者を騙した(ちなみにフルで聴くとちゃんとハートフルボッコ歌詞してる)。というかそもそもキッズステーションで放送すな

TBSの地上波放送では、12話の一部が倫理委員会によりカットされるという鬱アニメ認定試験も無事突破。間違いない鬱作品と言える。ちなみに、原作はアニメよりも細かくストーリー回収してくれてるからより深部へ挑戦したい人は原作を読むことをオススメする(責任は取らない)。

なるたる(1) (アフタヌーンコミックス)


『ベルセルク』(2016)

あらすじ

“自分の国を持つ”という大きな野望を持つグリフィスは絶対的な力を持つ「ゴッドハンド」の五人目の守護天使となることと引き換えに自分が最も大切にしていた者たちを生贄に奉げた。

生贄の儀式の生き残りでありグリフィスの片腕であったガッツは身の丈を超える巨大な剣を持つ「黒い剣士」となり、仲間を裏切って無残に殺したグリフィスへの復讐のために世界を旅する。

日本が誇るダークファンタジーの巨塔。海外からの評価の方が高くて、俺の周りの漫画好き・アニメ好きでも意外と観てない作品の筆頭。原作40巻くらいしか出てないのにね。まぁ、内容が濃すぎて一人の男の鬱人生体感できるからな

中世ヨーロッパ風の”剣と魔法の世界”の王道を素で行くと聞けば、多少なりとも興味を持ってくれる人はいるかもしれない。だが、そんな軽い気持ちで観ると熱いフライパンで焼かれる冷凍ステーキのように苦しむことになる。

 

親友全員と恋人を同時に失う拷問展開

人理を超えた存在になれる券が当たったから人生の友全員生贄に捧げるでござる!という人間の業を描く胸糞王道ストーリー(でも、辛かったんだもんな!そりゃ人間辞めたくなるわという同情要素もある)。しかも特筆すべきはその人生の最底辺部分が描かれるのは作中中盤の過去編という残酷さ。こんなこと抱えて生きてたのかよ…ってなる。

真のダークファンタジーにおける悪魔どもは相手が男だろうが犯すし四肢でキャッチボールしながら大切な人を嬲る。信じ切っていた親友に裏切られ、悪魔たちに心と身体を凌辱される仲間を見ながら、なお生き続けた男の物語を観れば鬱間違いなし。例の如く、原作の方が数倍精神病めるし、辛すぎて人間辞めたくなるから読んで欲しい(絵の描き込み具合が日本トップレベル)。ハリーポッター好きな人とか、百味ビーンズの絶望味だと思えばちょっとワクワクするのでは?(しない)

ベルセルク 1 (ヤングアニマルコミックス)

 

『最終兵器彼女』(2000)

あらすじ

北海道の何も無い、でも坂ばかり多い街に住んでいた僕(シュウジ)。

ある日靴箱の中に手紙が入っていた。ちせからの手紙。僕らは、彼氏と彼女になった。 ちせと本当の彼氏、彼女になってからしばらくしたある日、町でタケやノリと買い物をしていたらいきなり僕達の日常が終わった。

そこで見てしまった、彼女。ちせ。

僕達は、恋していく。

ごめん、これは流石に有名すぎたかも。でも案外ちゃんと観てる人少なくない? アニヲタなんですぅ~って言ってる奴だいたいこれ観てなくない? にわか判別アニメと言っても良いかもしれん。

戦争に巻き込まれて無双していく物語は数あれど、最終兵器になる事の悲しさをここまでリアルに描写したのは本作くらい。ただの一般人がいきなり最終兵器になってジェノサイドするが、「それでも恋がしたい」という万国共通時代不問の乙女の心情が見事に北海道の地を舞台に顕現。ちなみに実写版、あれはダメだ忘れろ。

 

愛が純粋だからこそ病む

これたぶん、キャラの年齢が大人だと全く違う作品になったと思うんだ。高校生の恋愛をしながらの兵器生活だからこそ、日常の素晴らしさと憧れが際立つ。俺がこれを観たのも高校生だったからかな…「この作品観て一緒に泣けるような子と結婚したいな…」って思った記憶がある。話が遥か過去に飛躍したが、そのくらいリアルな心情が描かれてた。

原作は原作で、儚い気持ちを上手に表現している点が◎。

最終兵器彼女全7巻 完結セット (ビッグコミックス)

 

『今、そこにいる僕』(1999)

あらすじ

剣道場から帰る道の途中でシュウは、廃工場の一番高いエントツのてっぺんで佇んでいる見知らぬ少女のララ・ルゥを見つけた。

少女に興味を持って話しかけるが、少女は無言で夕日を見つめている。そんなとき突然、空間の彼方から彼女を狙ってやってきた奇怪なロボットの集団が迫ってきた。

ララ・ルゥを助けようとしたシュウはエントツから真ッ逆様に落ちてしまい、目覚めたらヘリウッドという知らない世界に連れてこられていた。

ちょっとジブリっぽい絵柄で可愛らしいキャラが特徴(というかだいたい他の作品もそうだけど)。この絵柄で、王道のボーイ・ミーツ・ガールを描く少年少女の成長物語…かと思いきや、ひょんなことから異世界に連れてこられたヒロインが強姦される(しかも妊娠する)という鬱病発症特効薬。


戦争×終末×絶望のトリプルコラボ

異世界で王女を助けるために、兵隊として奮闘する少年の頑張りをひたすらに見守るというだけでも十分鬱要素があったのだが。物語終盤にかけての報われなさが異常。なんでこんな子供たちがこんな目に…という理不尽さで、怒涛の如く畳みかけてくる哀しみは最終回でピークを極め、「いつか…また一緒に夕陽みようね?」というララ・ルゥの最期の虚無感でご飯3杯は食べれるくらい、心にぽっかり穴が空く

今、そこにいる僕

 

 

『TEXHNOLYZE』(2013)

あらすじ

絶望と暴力に支配され荒廃した都市・流9洲(ルクス)。地下にあるこの街は、地上との通行を遮断され、吹き溜まりのような場所と化すも特権階級である“クラース”とギャング的な自警団である“オルガノ”によりかろうじて維持されていた。

ある日、この地に一人の男が地上から通風孔を通って降りてきた。男の名は吉井。ある野望を遂行すべく降り立ったこの男を迎えるのは、賭けボクシングで生計を立てるも瀕死の重傷を負った少年・櫟士、近い未来を見ることの出来る少女・蘭、街の声を聞くことの出来るオルガノの長・大西京呉、そして未来の義肢である「テクノライズ」の技術に魅せられたクラースの科学者・ドク。

この男の来訪により、やがて流9洲は街全体を巻き込んだ事件へと発展していく。

最後は『TEXHNOLYZE』(テクノライズ)。「鬱アニメを語る上で、この作品は絶対に外せないでしょ!」っていう超名作。台詞という台詞が無い第一話は当時ネットで話題になった本当の問題作でもある。

安易な気持ちで観ると絶対に途中で挫折するから、本当に鬱になるアニメを探してるっていう人だけ是非ともチェックして欲しい。話自体がかなり面白い(面白いとは言ってない)し、物語終盤の盛り上がりというか加速具合は比肩する作品無し(かなり人を選ぶ)。「は?何このアニメ?」という感想を抱くことになるが、一気に観ることでその疑問はなんとなく解消されていく

 

心・身・誠・救・済!!!

まずOPがインストゥルメンタル。あぁ…これヤバいやつや…感満載の開幕に心をやられている暇はない、本当の絶望は遥か彼方。と言っても、これは俺の感想だから。嵌る人は本当に自分の人生の1ピースかのようにド嵌りするし、1話からメチャクチャ面白いっていう視聴者もいる(ピカソの生まれ変わりとかですかね)

肝心の物語はSF任侠モノ…って言うのが一番近いのかな。進化した人間が幸せになる訳ではなく、最期に向かう退廃した世界で、どう人間は生きるのかっていう事を考えさせられる作品だった。見せかけのカッコ良さや可愛さ、そんなものどうだってよくなる。完全に希望の立たれたラストシーンで逆に希望すら見えてくる気がした俺は少し重篤な気すらした。何を言っているか分からないと思うが観れば分かる。それほどに深い。繰り返しになるが、「これが自分の人生に足りなかったアニメだ」って人、本当にいるからな

TEXHNOLYZE 全8巻セット

まとめ

以上、鬱だった俺も認めるアニメ上級者にこそ観て欲しい5作品でした。むしろ、この5作品観たら鬱アニメマイスター名乗って良いと思う。

「意外と観られてない」って言っても観てる人は観てるし、何ならこの記事を探し出すくらい鬱への探求心を持っている人は既に全部視聴済みかもしれない。そんな人は、『ベルセルク』以外は結構昔の作品が多いし、懐かしいなぁと思いながら笑ってくれれば嬉しい(笑えるくらい心が壊れているなら)。

観てない作品が一つでもあった人は、死にそうに辛い境遇の時に視聴して欲しい。より作品にのめり込めるし、良くも悪くも人生を変えてくれる作品になると思う。

大切なことは観て何を想うかだ。人はどれだけ絶望の中にいたとしても、希望を見出だすと俺は信じています。

俺は人生で一番面白かったアニメ映画と問われたら『REDLINE』と答える

人生において、傑作と言うべきアニメに出会うことが稀にある。
俺にとって、その代表作品が『REDLINE』ってワケだ。

御所アニメーター小池健・川尻善昭・大平晋也、当時ガイナックスに所属していた大平晋也・すしお、伝説級のクリエーターが集ってCG無しの手書き と言えば、アニメ文化に造詣の深い者なら察するだろう。

2010年に公開された本作。10年を経てもなお衰えず「笑い120%、涙120%、熱量1200%」で輝く魅力を、俺なりに紹介したい。

あらすじ

物語の舞台は、地球から2万1千光年離れたM3星雲という星系。 そこでは一時に数多くの知的生命が誕生し、ほぼ惑星一つ単位で文明が生まれた。 が、違う文化を持つ種族の間では摩擦が起き、紛争が起こり、やがて星雲全体を巻き込む宇宙戦争へと発展してしまう。

2度に渡る大戦が終わりひとまず宇宙平和条約が結ばれたものの、経済は泥沼化し、一部の星では軍事目的の技術研究も未だに行なわれており、現代の地球と同じ平穏と緊張と閉塞感が背中合わせにある時代が訪れていた。

そんな中、2度の大戦をまたいで尚絶大な人気を得て興行されている娯楽があった。 宇宙最速を決める5年に一度のカーレースの祭典、”REDLINEグランプリ”である。

電動ゴマと呼ばれる反重力エンジンを積んだエアカーが主流になりつつあるこの時代に、 敢えて旧来の燃料エンジンを積んだ四輪車で走るというマニアックさと、エンジンに関する事以外は禁止事項が無くどれだけ大きかろうが武器を積もうが何でもアリという過激さと能天気さで人気を博しているガチンコバトルレースだ。

そのREDLINEも8回目を数え、犬型獣人族の住むドロシー星にてREDLINE参加権残り一枠を賭けた最終予選レース、YELLOWLINEドロシー星大会が行なわれる。 まるで重戦車か戦闘機、あるいはその両方を足した様な姿の車達が激戦を繰り広げる中、一台だけただの車同然と言えるマシンが走っている。

マシンの名は”トランザム”。

それを駆るレーサーの名は、
“スゴク優しい男、JP”。

REDLINE
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木村拓哉&蒼井優のW主演

神キャスティング、この一言に尽きる。

というかコレ社会的に認知されてなさ過ぎない? 俺も当時、吉祥寺のバウスシアターに偶然迷い込んで観るまで知らなかったぞ。キムタクに関しては2004年の『ハウルの動く城』以降、沈黙を破ってのまさかの出演。つまり、ジブリの次に選ばれたのがこの作品なんだよ。蒼井優も『鉄コン筋クリート』から4年ぶりの声優挑戦。演技に関しても全く問題ない、むしろ超ハマり役

 

「すごく優しい男」
JP(C.V.木村拓哉)

本作の主人公。

本名:ジョシュア=パンクヘッド。鬼盛りリーゼントに革ジャンという厳つい格好でキメているが、中身はレースを愛する純朴な青年。

少年時代に一目惚れした少女ソノシーを今でも想い続けているウルトラ純情野郎。

ミサイルが挨拶みたいな殺人レースにおいて、武器0速度100にカスタマイズした愛車のドライビングテクニックだけで勝負するという、頭のネジが飛んだイケメンリーゼント。相棒のメカニック・フリスビー(C.V.浅野忠信!)の身代わりで前科持ちになり、保釈金返済のために八百長試合を続けるデススパイラルな人生を送る。中々に可哀想な境遇。

作中でもこのフリスビー(C.V.浅野忠信!!)との友情がとても熱い。REDLINE本戦ではドライバー・メカニック・ジャンク屋の三位一体ゴールデントリオで宇宙のキチガイ猛者どもと凌ぎを削ることになるが、走りながらも互いを信じあうその姿は『弱虫ペダル』における福富と荒北の名コンビを彷彿とさせた(主に俺に)。直前まで八百長する気満々だったのに、夢の舞台で走っているJPを観ているうちに「俺は最後までレースが観たいんです!」って、ヤクザ相手にメンチ切るフリスビーには落涙必至

 

「チェリーボーイハンター」
ソノシー・マクラーレン(C.V.蒼井優)

本作のヒロイン。

JPの少年時代からの片想いの相手であり、同時にREDLINE優勝を目指してしのぎを削るライバルでもある。

人生の全てをレースに捧げている一本気でクールな女性であり、大のエンジンオタク。恋愛関係にはさっぱり興味が無く、告って来た相手を片っ端からフる様から「チェリーボーイハンター」と勝手にあだ名が付けられてしまった。

REDLINE出場が夢で、そのために全てを犠牲にしてきたという正真正銘の女性車ヲタ(めちゃくちゃ可愛い)。基本的に純情なので、ロマンティックに攻めてくるJPに対しては非常に好意的だが、昔出会っていることを覚えてないあたり生来の小悪魔とも言える。

また、負けん気が強いところも加点ポイント。REDLINE本戦では初っ端にミサイル爆撃かましてきたリンチマンに対してレース中盤で水没させるお礼参り。可愛いだけじゃなく、強い蒼井優。

 

ストーリーの面白さが限界超えてる

ことごとくハイテンションなんだよ。俺の周りに1人でもこんなにアゲな友達いたら、胃痛と頭痛がジェットコースター乗って襲ってくるハズなんだけど。不思議と不快さは皆無。何故なのか、たぶん起承転結と緩急がしっかりしているからだと思う。

導入部、REDLINE本戦の予選、YELLOW LINEレースの様子から始まり。JP・ソノシーの勝負、ヤクザとのやり取り、リザーバー枠での本戦出場決定。REDLINE準備期間、ソノシーとの再会、出場選手の紹介VTR、レースへの仕込み。ここまでで作品全体の半分近くを要している構成が良い。タイトルに冠しているREDLINE本戦を後半に全て持ってくることで、焦らしつつも、一気に視聴者の心を鷲掴みにした。脚本家、メンタリストですか?

 

軍事的極秘機密満載の
アンタッチャブルワールド

レース開催場所が死ぬほど危険地帯というのも素晴らしい演出と言える。開催地のロボワールドは完全な軍事国家(星)で、全宇宙に配信されるゲリラレースなんてやられたら生物兵器やら条約違反の兵器やら、モロバレ。だから絶対に自国でのレース開催なんて許せないし、不法侵入者絶対殺すマンとなる。つまり、REDLINE出場者は他の参加者と競いつつ、ロボワールドの攻撃(地雷攻撃・絨毯爆撃・衛星攻撃・生物兵器)から逃れなければならない。三竦みのカオス。

でもこれが話としてまぁ~上手くまとまってる。参加者との因縁からレースに参加し始める軍人、目覚める宇宙平和条約違反の生物兵器、それを止めるために衛星レーザーを自国に落とす軍部。この怒涛の流れの中でしっかりレースするREDLINE参加者。マシンを壊されたソノシーに駆け寄るJPからの昔話で仲直りする2人。もう、全部の歯車がゴールに向かってて最高なんだよ

 

そして何よりも音楽が限界超えてる

REDLINE
オリジナルサウンドトラック

手掛けたのはCM音楽界の重鎮、ジェイムス下地さん。”CCレモン”とか”ペプシマン”のCMを作ったという、これまた伝説の御方…。重低音の中にもポップさを含んだバランスの良いサントラ(なんと映画一本で42曲)は、物語の端々で感情を刺激してくる。というかキマる

アニメーションにおいて、音楽の大事さをしっかりと感じさせてくれる本作の存在は日本のアニメ界で「俺たちはこの位やっちゃうよ?これ、越えられる?」という挑戦のようにも感じられる。ぜひともアニメ制作に関わる人達は参考にして欲しい

 

言わずもがな作画も限界超えてる

製作期間7年、総作画枚数10万枚は伊達じゃない。10秒間で700枚描いてるシーンもあるみたいだけど、魂込めすぎでは?死ぬぞ?  作品のキャッチフレーズである「限界を超えろ」を、スタッフ陣が我先に体現しているという前代未聞のフライング。

ちなみに、俺は作画枚数が多ければ良いアニメ作品というワケではないと思っている。枚数の多さは一つの指標になるが、枚数の多さで言えば『マクロスプラス』でも5秒間にセル画160枚超のシーンがあった。要は”どこまで妥協せず突き詰めるか”なんだよ。そういった意味で、この高速レース作品における作画は完全に変態超人。

※余談
ジブリ映画の作画を参考までに。
『風の谷のナウシカ』5万6000枚
『天空の城ラピュタ』6万9000枚
『もののけ姫』14万4000枚

 

まとめ

俺のFilmarksでのアニメ映画TOP3は『REDLINE』『天気の子』『劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇』が同列1位なんだけどね。この牙城は一生崩れないと思っている。

こんなに製作者の魂が入った作品は他に無い。

『SAW』シリーズ屈指の犯人”ジグソウ”は人類の敵ではなくダークヒーロー

数あるスプラッタ映画の中でも無類の人気を誇る『SAW』。始まりにして永遠の犯人、”ジグソウ”ことジョン・クレイマーは愉快犯に非ず。そして、狂人ですらなかったと俺は思う。正義を持つ彼はまさにダークヒーロ―。

あらすじ

パパラッチの男性アダムは水の張られた浴槽の中にいた。

栓が抜けて水が抜けていくのと同時に目覚めたアダムは、自身が酷く老朽化した手広いバスルームにいることに気づく。アダムの片足は鎖で繋がれ、部屋の対角線には同じように鎖で繋がれた医師、ゴードンがいた。そして部屋の中央には拳銃自殺の遺体が倒れていた。

鎖はとても外れそうになく、出入り口は硬く閉ざされていた。まったく状況を飲み込めなかったが、アダムは自身のポケットにカセットテープが入っているのに気づく。ゴードンのポケットにはカセットテープと、未使用の銃弾と、何らかの鍵があった。

自殺死体が握るテープレコーダーで、ふたりはそれぞれのテープを再生する。内容はそれぞれへ宛てたメッセージでゲームをしようとささやくのだった。

ソウ (字幕版)


息子を失った悲しみで目覚める

『SAW 4』で明らかになるジグソウ誕生の要因。ジル・タックって言う、ジョンの元妻が『SAW 3』で出てくるんだけど(結婚してたのかよ! カッコいいもんな! と叫んだ)、彼女が麻薬常習犯更生施設の経営者なんだよね。ジョンとの子を身籠っている時に、患者の一人が起こした強盗事件によってお腹の子が流産してしまう。これがキッカケで被験者殺しを始めるんだけど、俺はこれを知った時に漸くジグソウのことが好きになれたね。

「生きていることはそれだけで幸せなんだ、殺人なんて愚かだ」が持論のジョン。おま! お前がそれを言うのか? と俺も初めは思ってた。でも違ったんだよ。彼は必ず被験者(被害者)に助かる道を与える。助かるには五体満足じゃなくなるレベルの無理ゲーが多いんだけど、それぐらいのことしないと生きてる実感得られないよね? という鞭の先の飴。そして被験者に選ばれるのは決まって他人のことを踏みつけて生を搾取してきた社会の闇相手だけ。

ここまで言えば分かると思うけど、ジョン・クレイマーは決して愉快犯ヴィランではない。むしろ、スパイダーマンやバットマンと同じ、ダークヒーローに近い属性を持っている。自分なりの正義をもっているからこそ、多くの視聴者を惹きつけるし、作中でも模倣犯や心酔者、協力者が絶えず出てきたって事だ。

 

”ジグソウ”後継者の存在

ジョン・クレイマーを語る上で欠かせないのが、後継者の存在だ。ぶっちゃけると、初代”ジグソウ”ことジョンは元々末期ガンを患ってて、シリーズ3作目で死ぬんだけど。それから4・5・6・THE FINAL、2017年に『ジグソウ:ソウ・レガシー』までシリーズは続く。これが実に面白いし、話が良く出来てる。てか犯人死んでからの方が長いサスペンスって凄くね?金田一もコナンビックリだよ。つまり、 ジョンが死んでからは後継者がゲームを続けることになる(正確には2から)

アマンダ

『SAW 2』にて、皆のトラウマ・注射器プールにダイブかましたイケイケ姉ちゃん。彼女は後継者というよりは”ジグソウ”心酔者と言っても良いかもしれない。麻薬常習犯にでっち上げられて、病んだ挙句、本当に麻薬ヘビロテし始めたグレイテストウーマンって読んでも良い。ジョンによる「生きている幸福さを気付け」ゲームによって、人としての喜びに目覚め、以降ジョンのゲームのアシスタントとして活躍することになる影の立役者。

でも、完全な後継者になれたかと言えば実はそんなことは無い。被験者に対して生の執着を感じさせた後、希望という出口の無いジェノサイドをするだけという生粋のドSマーダーとしての才能が開花。ただただ行うだけのその姿にジョンが失望して怒る場面も(そしてアマンダは泣く、てかこの殺人にも実は理由がある)。

たぶんアマンダみたいに意思の弱いいわゆる普通の人がジョンの知識を得て、ある種の全能感を感じると、同じようになってしまう気がする。アマンダの姿は俺たちだ。自分を救ってくれた人の行いを手伝いたいという一心で、信念の無いまま心を壊した善良な人間だ。だが、”ジグソウ”にここまで心酔させる魅力があるということを、彼女はその命をもって示してくれた

ソウ2 (字幕版)

ソウ3 (字幕版)

ホフマン刑事

そう、刑事なんですよね。真なる後継者は。絶対にジョン・クレイマー捕まえるマンとしてその敏腕を振るっていたホフマンが、実は物語序盤から”協力者”として暗躍(時に表舞台でも活躍)し、二代目”ジグソウ”になったのは偶然ではない。

妹が恋人に殺されるという悲惨な目にあった彼は、捜査中だったジグソウの手口に見せかけて妹の元カレを殺害(リアル・ギロチンカッター)。この一見がジョンにバレ、「自分に従わないと君の殺人、世間にバラしちゃうよ?」 と脅される形で各ゲームの仕掛けや被験者の誘拐に協力するようになる。

ちなみに、『SAW 6』にてアマンダがプライドをギンギンにしてホフマン刑事に喧嘩売るシーンは中々に嬉しい場面。ちょっと頼りにされてるからって調子に乗んなよデクノボウが! と言わんばかりの後継者争いは、ジョンの徳の高さを証明していた。GJ。

そしてこのホフマン刑事はジョン志望後のシリーズに置いて八面六臂の大活躍をしてくれる。いやいや、お前、脅されて協力してたんじゃなかったっけ? こう思った諸兄は正しい。そうなんだよ。はじめは脅されて手伝ってただけだったのに、いつの間に自我に目覚めた? いつの間に殺人テクニック高めた? ゾルディック家で修行した? まぁ、それだけ正義を基に行われる行動には中毒性があるって事なんだと俺は解釈した。頑張って勉強したんだよな。

ソウ4 (字幕版)

ソウ5 (字幕版)

ソウ6 (字幕版)

ソウ ザ・ファイナル (字幕版)

 

蘇り続けるジョン・クレイマー

2010年にザ・ファイナルを公開し、完全に物語の幕を下ろしたかに見えた『SAW』だったが、2017年に『ジグソウ:ソウ・レガシー』で復活を遂げる。「どういうことだってばよ…」「絶対に模倣犯やん…ジョン出てこないやん…」というファンの心配をよそに、作中10年の月日を超えて復活を遂げるジョン・クレイマー。正真正銘不死身の男は更なる正義を執行するのか? …という、夢を見たんだ(大嘘)。

いや、ごめん(笑)。殺し方のバリエーションと物語の深み(あとグロさ)は見事にランクダウンしてたけど、シリーズ全部を観てる人はしっかり楽しめる内容だったよ。逆に、グロ成分かなり抑えめだったから、『SAW』一個も観てない人でもコレから観れるのかもしれない。「たぶんまた10年後とかに続くんだろうなぁ」って、シリーズを超えジャンルと化したのを確信した作品。

ジグソウ:ソウ・レガシー(字幕版)

 

まとめ

わかりやすく言おう。『SAW』シリーズは映画という媒体を用いた海外ドラマだ。全容を知ることで初めて物語の核心が分かってくる。面白さの比較対象として『ストレンジャー・シングス』とタメ張るくらいだと思ってもらって良いと思う(※当俺比)。

SAW ソウ ビリー人形風 マスク

ちなみに言うと、実は俺は『SAW』シリーズが苦手だった。ホラー好きなのに甘いこと言ってんなぁって思われても構わない。俺は血が苦手なんだ。『ジューン・ドゥの解剖』でも血にビビってたくらいの弱虫だ。

だが、『SAW』は全部観た。ひとえにストーリーが良かったのと、ジョン・クレイマーの正義感に心を打たれたからだ。見事に1人”ジグソウ”の心酔者が増えたってワケだ。きっと、俺が殺人を侵したら、この記事がニュースで流れるんだろう。『SAW』は現代の若者の心の闇を刺激した悪質な作品だってな。大丈夫、そんなことにはならない。俺は血が苦手なんだ! むしろ自分の血とか、自分の身体が痛いのは大好きだけどな!

正義を貫いたダークヒーロ―に献杯。

生き様で後悔したくない人は黙って『呪術廻戦』読めば良いと思うよ

『ハンター×ハンター』枠のニュージェネレーションと言えばその魅力は伝わると思うが。もっと一般人向けに綺麗ごとを述べれば、週刊少年ジャンプの層の厚さを証明するかのような作品、それが『呪術廻戦』。

ストーリー・概要

呪い。 辛酸・後悔・恥辱…。人間の負の感情から生まれる 禍々しきその力は、人を死へと導く。ある強力な「呪物」の封印が解かれたことで、 高校生の虎杖は、呪いを廻る戦いの世界へと入っていく…!

異才が拓く、ダークファンタジーの新境地!

呪術廻戦

ちなみに、漫画漬けの日々を送る俺は
他にもオススメ漫画を紹介してます。

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それではお待ちかね。下記にて『呪術廻戦』に関して独善的に語っていく。楽しく読んで、作品のことを好きになってくれると嬉しい。

2020年10月よりアニメスタート

連載開始から2年で待望のアニメ化。正直、今までジャンプ読者の中でもニッチな層にウケてたからさ、メジャーになるのはどうなるんだろう…と言うところだけど。五条悟(c.v.中村悠一)がいる時点で面白さは無限になることが約束されているからな。

 

 

戦闘システムのセンスが良い

俺が何故この作品を手放しで褒めているのか、それはある意味ジャンプらしい戦闘システムの存在に起因する。脳筋よろしく「君がッ 泣くまでッ 殴るのを辞めない!」バトルも大好物なんだけどね、もともと『ハンター×ハンター』大好きな俺、頭で考えながら戦う作品が大好きなんだよ。別誌だけど、最近だと『出会って五秒でバトル』も良い。

もちろん、『呪術廻戦』で念能力は出てこない。その代わり呪術が出てくる。これが面白い。基本的には物理で殴るゴーストスイーパーなんだけどね。

ちょこちょこ画像で出てきている五条悟先生を例にこの漫画のバトルを少しだけ紹介したい。

 

呪術という名のナンデモ異能バトル

五条悟先生が使うのは「無下限呪術」っていう術式なんだけどね。コレは収束する無限級数を現実にする術式なんだよ(作者も上手く説明できていないので理解はしなくて良い)。もっと簡単に説明してみよう。敵がパンチして来た時、拳と五条先生の間には無限が広がっているんだけど、これを現実世界での無限として顕現する能力と言えば分かりやすいかな。うん、分からないね。え~っと、要は、目に見える世界だけで説明すると、引力と斥力と重力を同時に操るみたいな感じ? あとコレの応用で「領域展開」っていう技を取得してて、形成した領域の中にいる敵に無限の情報を与えて脳をフリーズさせ行動不能にすることもできるぞ!(大丈夫!俺も自分でッ 何言っているのかッ 全く分からない!)

ぶっちゃけると、超序盤に出てくるこの先生がマジで最強のキャラ。だから能力も規格外すぎてちょっと人理超えてるんだよね(例えに出すキャラ間違えた感)。

 

異種呪術混合戦闘

あと、他の登場キャラも基本的には固有能力持ちってのが良いポイント。あんまり被りが無い。ちなみに一応の主要メンバー3人組は、近距離物理タイプ・式神中距離タイプ・呪殺遠距離というバランスの取れた構成。

もちろん敵キャラもしっかり個性あって、むしろあり過ぎ? 見てて飽きない。最近のジャンプは同時期に『ファイアパンチ』作者の長編連載『チェンソーマン』も絶好調で陰鬱とした人気を博しているけど。俺は正統に『H×H』の系譜を継いでいるのは本作だと思ってるよマジで。

 

 

外・内面ともに過剰スタイリッシュ

いやぁ~、もはやなんで服着てるのか理解できないレベルでスタイリッシュ。身体の構造上、ポーズにはきっと意味があると仮定しても(無い)、台詞・髪型・服装全てが通学路で出会ったら即ブザー鳴らすこの感じ。最高にズキュウゥゥゥゥンだよね。

 

主人公格は3人

やべ、主人公の画像が少なすぎる。まぁ、ある意味群像劇だし、主人公単行本4巻くらいまでずっと死んでたからな、仕方ないね。とは言え、特に魅力を放ってるのが主人公格3人。1人は最強・五条悟、正主人公・虎杖悠二、そして本編開始前の第0巻(『東京都立呪術専門高等専門学校』)で登場する元主人公・乙骨憂太。この3人が結構話の軸になってストーリーが進んで行く。

中でも俺が好きなのは元・主人公である乙骨。コイツが本当に熱い。簡単に説明すると、子供時代に結婚の約束をした幼馴染が交通事故で死ぬ。それからずっと幼馴染の呪いに悩まされ、呪術高専に入学。でもこれが相当なマッチポンプ。幼馴染が死ぬ瞬間に「死なないで」と願ったのが呪いになって、実は幼馴染の呪いっていうのは、幼馴染を死して尚呪いで引き留めていたっていう超ブラック純愛主人公。※性格はかなり善良、友達想いの常識人(そして純愛アニキ)。

もちろん、他の同級生キャラも魅力的。パンダとかパンダとかパンダとか。パンダはゴリラにも変身するしな。

 

 

まとめ

ざっくりと概要だけの紹介になったけど。人を選ぶが、人にオススメしたい作品の筆頭である本作。絵を見ただけで興味を少しでも持った人はセンスがある。絶対に読んだ方が良い。ハマる人は理屈抜きで絶対にハマる。『幽遊白書』とか好きだった人にもドンピシャ。

これから絶対に来る漫画だし、時間があれば必読。

俺は恋人が死んだら悪魔と契約してでも絶対に蘇らせるけど

敬愛するS.キングさん。
彼が『ペット・セメタリー』で描く人間の業とは。

原作あらすじ

メイン州の田舎町に家を購入した若い医者のルイス・クリードは、妻のレーチェルと幼い娘のアイリーン、生後間もない息子のゲージ、アイリーンの愛猫チャーチルという家族を持つ、典型的な「幸せな一家」である。庭には細道があり、その昔、町の子供たちが造ったペット霊園がある裏山に続いている。隣家にはジャド・クランドルとその妻という老夫婦が住んでいる。

レーチェルが子供たちを連れて実家に帰省していたある日、猫のチャーチルが車に轢かれて死んでしまう。まだ身近な「死」を受け入れたことのない幼い娘にどうやって説明するか悩むルイスは、詳しい事情を聞かないままジャドに連れられて、チャーチルの死体を裏山からさらに奥に分け入った丘に埋める。すると次の日、死んだはずのチャーチルが家に帰ってきた。だが、帰ってきたチャーチルは腐臭を発しヒョコヒョコ歩く、全く別な“何か”のようだった。

釈然としないまま過ごしていたある日、今度は最愛の息子ゲージがチャーチルと同じように轢死してしまう。悲嘆にくれるルイスに、ジャドはチャーチルを埋めた場所にまつわる忌まわしい事実を語り、「あの場所に二度と近づくな」と釘を刺す。しかし、亡くなった息子への愛が、ルイスに決して超えてはいけない一線を超えさせてしまう。

 

これが原作版のあらすじ。2019年のリメイク版に関しては少し内容が変わる。まず死ぬのが息子じゃなく娘。息子よりも歳上の、人格が形成された後の子供を亡くすことで、より”人が死んだ感”が強調されている。

 

にゃんこに助演俳優賞あげたい

最初に蘇る猫がモフモフフワフワでめちゃくちゃ可愛い。物語序盤はザ・幸せな家族の様子が垣間見られるんだけどね、その幸せをさらに強調するかのようなチャーチルの演技はまさに百城千世子。猫好きは必見だ。だが蘇った後は別猫のように様変わりしてしまう。ロアナプラ出身の猫さんでしたっけ? そんな感じに演じ分けをするこの賢いにゃんこは一体何者なんでしょうか。その演技は全アクター中随一で間違いなくレッドカーペットで助演賞

 

不幸だとしても抗えない人間の業

泥だらけで黄泉帰ってきた娘をルイスが洗ってあげるシーンがあるんだけどね。ここリメイク版の好改変ポイントだと思う(本来なら戻ってきてすぐにジェノサイドを始める子供が描かれる)。このシーンのおかげで、父が本当に娘が帰ってきたことを喜んでいるっていう心理が深まった。

そもそも、ルイスは医者という職業柄、死者を蘇らせるってことにはかなり否定的な立場のハズなのに。ペットセメタリーの魔力を知ってしまった以上、どんな悲惨な結果になろうとも最愛の娘だけは蘇らせたいという人間の真理(というより、親の真理?)が表現されてるんだよねこの脚本。

気持ちはわからんでもない。まだ子供がいない人間には中々理解し難いかもしれないが、例えば恋人だとしたらどうだろうか。本当に大好きな恋人が死んでしまったら、どんな手段を使ってでも蘇らせて、もう一度会いたいと思わないだろうか? そう、『シャーマンキング』のファウストのように。悪魔に魂を売ってでも。それが愛であり、人間だと思うんだよね。

だがそれは間違いなのかもしれない、本作では”蘇らせた人間も、蘇った人間も永遠に苦しむ”という事が説かれる。死から蘇ることは想像を絶する苦しみだし、死を冒涜したことで「永遠に地獄の炎で焼かれる」とアイリーンが語る(言ってることは理解できるが、性格変わりすぎ)通り、人間の愛にも超えてはいけない一線があるのかなって思った次第。

 

死について考えることは愛に繋がる

ちょっと脱線するけど、イスラエルの大学で行われた実験で面白いものがある。それは「死について考えることで恋人への愛情が増す」という中々に興味深い実験。「自分が今生きているのは、生きる気力を与えてくれる人がいるから」という考えに至るそうだ(恋人がいない場合はモノや組織に置き換わる)。これも面白いよね。終わりを意識することで、より今の状況を意識するということ。幸せな状況を当たり前のように享受してしまう人間の業を現わしてる。『ペット・セメタリー』でS.キングが言いたかったのはこう言う事なんだと思うんだよね。「今を大切にすることほど大切なことはありませんよ。」って。むむ、深い。

 

まぁ、でも、ここまで理解してても、
当事者になったら悪魔に助けを乞うんだろうなぁ…。
それが「人間って面白ッ!」byリューク な所。

ペット・セメタリー(字幕版)

 

まとめ

本作は、かなり大人向けの作品として完成してると感じた。ジャンルはホラーというよりモラル。自然の摂理にだけは逆らってはいけませんよ? ということを暗示しつつ「でも、人間はそういうワケにはいきませんよね~」という茶目っ気たっぷりの裏返し

こういう、人間の中の触れづらいツボを突いてくるからS.キング作品はたまらない。

『スタージル・シンプソン:SOUND&FURY』で創造における解答設定の大事さを説きたい

Netflixに現れた謎アニメ映画『スタージル・シンプソン:SOUND&FURY』はもうご覧になっただろうか? その実態は『ニンジャ・バットマン』のスタッフで送る、40分を超えたアニメーションMV。

スタージル・シンプソンとは?

1978年、アメリカケンタッキー州ジャクソンに生まれる。父親の影響でブルーグラスやカントリー・ミュージックに触れ、次第にロックやソウルなどジャンルレスな音楽を吸収していった。高校卒業後、アメリカ海軍に入隊し、90年代後半に日本へ。川崎から横須賀の基地へ通い、週末には東京へ繰り出すという生活を送っていた。海軍生活を終え、本国にて鉄道会社に就職し、仕事も順調であったが、最愛の妻の最大級のサポートから、ナッシュビルに拠点を移し、音楽への道を再び志すことになった。2013年、ファースト・アルバム『High Top Mountain』を自主制作し、全米で31位を記録。2014年にセカンド・アルバム『Metamodern Sounds In Country Music』をリリースし、アメリカン・ミュージック・アワードでは「2014年に最も飛躍したアーティスト」に選出され、第57回グラミーではベスト・アメリカーナ部門にノミネートされるなど全米で大ブレイクを果たした。2015年には大型フェスティバルBonnaroo、Lollapallozaに出演し、数々の人気番組にも登場するなど、凄まじい勢いで全米での知名度を高めていった。

全米中のレコード・レーベルの争奪戦ののち、アトランティック・レコードと契約し、メジャー・ファースト・アルバム「A Sailor’s Guide To Earth」をリリースし、iTunes初登場で総合チャート1位(US)、カントリーチャート1位(US)、インディーロックチャート1位(US)を総ナメ。そしてアルバムはBillboard全米チャート3位を記録した。

第58回グラミーでは、同アルバムが主要部門である「最優秀アルバム賞」、そして「最優秀カントリー・アルバム賞」にノミネートされその動向にも期待がかかる、全米が最も注目している「アメリカ音楽界の最重要シンガー・ソングライター」である。

 

要するに、最高に現代っぽくしたモダンカントリー。音楽にそれほど明るくない俺、このMVで初めてじっくり聴いてみたが、流石アメリカ様が認めたサウンド。存外良い…というか、オルタナ的にジャンルを超えた新しいカントリーソング、超良いぞ。

サウンド&フューリー
※本作で使われた楽曲収録アルバム

 

ストーリーは世紀末の復讐劇

簡単なあらすじ

過去編

突然スーツ姿の男2人組に家を襲われ、平穏だった日常は終わりを告げる(たぶん神職の刀鍛冶の家系?)。1人は銃、1人は毒を用いた搦め手を巧みに用いて、刀鍛冶の一族を惨殺。

無事助かった女の子と、その父。父は一族の復讐のために亡くなった友の魂を宿した二振りの刀を打つ。あと一歩のところで復讐が成るところだったが、娘を人質に取られ惨敗。

娘は刀に宿った魂の助力もあり、その場から父と刀を持って炎のなか逃走。いつの日か必ず復讐すると誓い、今は力を蓄え成長し強くなることを学ぶ。

未来編

舞台は近未来。荒野を駆ける車に乗り込むのは甲冑姿の女の子。歳は高校生くらいかな? この年齢になるまで身を潜めていたことに驚き。

復讐の対象である2人は世界を牛耳っていた。殿様よろしく、奴隷たちから過剰な搾取をするゲスっぷり。その2人に、真正面から復讐をしかける女の子。

果たして、復讐は成るのか!? そんな話(だと思う)。

 

MVとしてのアニメーション演出

なんであらすじ紹介なのに「たぶん」とか疑問形使うんだよって話だよね、うるさいなぁぶっ殺すよ? 。いや申し訳ない。なんせセリフが一切ない作品だからさ。

本作の音はスタージル・シンプソンの楽曲のみ。だから映像は全部楽曲の良さを惹き出すために作られているってことなんだよ。途中途中で、敵のマッチョとダンス始めるインド映画みたいなシーンがカットインするし、にっくき敵役も鋭い踊りを魅せる

故に、ストーリーは観た人自身で想像するしかない。だから上にかいた「あらすじ」も決して正解じゃないと思うんだよね。コレがこの作品の面白い所だと思う。

 

※クリエイティブを履き違えてはいけない

ちなみに…「内容はそれぞれのご想像にお任せします」ってスタンス、基本的に俺は嫌いなんだけどね。いや、ちゃんと答えを持ってるなら良いんだよ。許せないのは作った側が明確な答えを見つけきれてないのに、さも”答えは万人の心の中にあります…”みたいな達観した感じでナゾナゾをぶつけてくるのが大っ嫌いなんだ。いや、ちゃんと伝わってますよ? 貴方がちゃんと無能で物事を最後まで成し遂げられない小物だという事はね。曖昧なママ世に出したモノってのは、曖昧なママ世に伝わるからね。だから答えを設定するのが大切なんでしょ。しかもその答えに独創性があり過ぎてもダメ。受け取った側は、「あ、はい…(コイツ何言ってるんだ?)」で終わるのがオチだからね(俺も編集の時に嫌と言うほど経験した)。自己満足のクリエイティブは絶対に世に評価されない。偉大なるこのことをクリエイター諸兄は心に刻んで欲しい(一般大衆のマイノリティレポートでした)。

でも本作に関してはその嫌悪感は全く無かったかな。だってこれMVやし。ハナからストーリーは後付けというか。本当の意味で”音楽を聴きながら観た人”に想像させることを目的としてる、そんな気がした。むしろ、映像をフォーカスして観た時は楽曲がストーリーを想像する手助けをしてくれる。良い相乗効果が生まれてるとすら思ったね(え、何様?俺様です)。

もちろん、映像はクオリティ高くて観てて気持ち良い。まぁ俺、『ニンジャ・バットマン』大好きだし。あ、良かったらこっちも観て。

ニンジャバットマン

 

まとめ

色々偉そうなことを書いたけど、俺はクリエイターではないので意識高いクリエイター様方は右から左へ聞き流して頂きたい。

どんなことにも言えるけど、中途半端な奴は何をしたって中途半端だし、言動の節々に中途半端さが出てる。本気で物事に取り組んだ経験がある人にとっては、何故かすごく腹立たしく感じる部分だってことは、老若男女問わず人類の総意かと。

と言いつつ、俺も中途半端なんだけどね。

耳が痛い(いや、この場合は目?)

40年かけて一つの物語を描いた2人の監督と『ドクター・スリープ』に御礼申し上げます

『シャイニング』の続編として2019年に公開された『ドクター・スリープ』。結論から言うと、最高だった。

あらすじ

40年前の惨劇を生き延びたダニー(ユアン・マクレガー)は、心に傷を抱えた孤独な大人になっていた。

父親に殺されかけたトラウマ、終わらない幼い日の悪夢。そんな彼のまわりで起こる児童連続失踪事件。ある日、ダニーもとに謎の少女アブラ(カイリー・カラン)からメッセージが送られてくる。彼女は「特別な力(シャイニング)」を持っており、事件の現場を”目撃”していたのだ。

事件の謎を追う二人。やがて二人は、ダニーにとって運命の場所、あの”呪われたホテル”にたどりつく。

呪われたホテルの扉が再び開くとき、すべての謎が明かされる。

 

フラナガン監督ワールド超新星爆発

監督のマイク・フラナガンはホラー好きなら知らないものはいない『オキュラス 怨霊鏡』の監督だよね。この作品の時から超常現象の魅せ方が半端なく上手かったし、『ジェラルドのゲーム』でも感じさせてくれた、”スティーブンキングへのリスペクト”。これが爆発した結果またすごいモノ作ったなって感じ。

「シャイニング」原作改変について

ここで多くの人が曖昧なママに知識として入れているであろう事に触れときたい。前作『シャイニング』で物議を醸した原作改変。これが何のことか、ちゃんと把握してない人は本当に勿体ない(それに、たぶん『ドクター・スリープ』を楽しめない)。

シャイニング [Blu-ray]

まず、前作のキューブリック監督が作った映画版『シャイニング』。これは実はスティーブン・キングの原作を大きく改変した内容になっていたってのは有名な話。俺が把握してるのは下記。

 

映画版における原作との違い

①ホテルはあんな迷路みたいな作りじゃない
②ホテルの内装はもっとモダン(裏側は黒いが)
③物語の主軸が怨霊じゃなくホテルになってる
④結末でホテルが燃えない

たしか大まかにこんな感じ。どうしてこうなったかってのは諸説あるけど(どっかにキューブリック監督の取材とか残ってるのかな?)、単純にハンディカム使いたかったってのが一つ。あとは映画を作る上で、当時流行ってたホラー要素を取り入れたかったってのが一つ。あとは、普通に原作の内容が好きじゃなかった説もある。こう並べると、中々に自己中心的な考え方してるように見えるけど、キューブリック監督の気持ちも分かる。新しいガジェット使って芸術的なホラー映画取れば絶対売れるもんな。原作長くて暗くて気持ち悪いもんな。実際、半端なく大衆にウケたし、でも流石のキング先輩も憤慨

そもそも原作のテーマ「再生」だしね。映画版の結末にキングさんが怒るのは当然…。こういった経緯があって、なお、この『ドクター・スリープ』でダニーが再び立ち上がる姿を強調して描いたフラナガン監督はヤベェ

しかもその描き方が本当に秀逸。偉大なる先輩に敬意を表するように、映画版『シャイニング』で描かれなかった小説版のプロットリスペクトで物語が作られてる。しかもそれだけに横着せず、映画界でも高い評価を得ているキューブリック監督のストーリーと、芸術的な意匠も、しっかりと受け継いだ二つの意味での”続編”になってた。

まぁ、『シャイニング』のサイコホラー感・芸術性が好きな人にはあんまりウケないだろうなぁってのは強く感じた。人それぞれだから仕方ない。『時計仕掛けのオレンジ』、観直そうぜ!

 

千里眼&ドクタースリープ vs オカルト集団

本作はサイキック集団との戦いがメインストーリーになる。サイキック集団っていうかオカルト集団だけど。怨霊的な恐怖じゃなくて、しっかりと人間の闇を描いてくれる当たりが嬉しい。あと何より、この集団のボス的存在を演じたレベッカ・ファーガソンが美しすぎる。観てる時に「ん~?この人なんかのホラーに出てたな~、叫んでくれれば悲鳴でわかるんだけどな~」って思ってたけど終始分からなかったからググった。『ポゼッション』だった

キャンピングカーで移動しながら世界を裏から見続けるっていう立ち位置が格好良いし、とてつもなくヒッピー。服装もお洒落で、こういうちょっとした点にキューブリック作品の続編感を漂わせててGOODでした。

話の内容もメチャクチャ良くて、ストーリー的に矛盾がないようにお互いの対立する理由が構築されてて、戦いも想像よりオカルト。『ハンターハンター』みたいな感じ。マジで。

ここからどうやって”あのホテル”に辿り着くんだろう…ってずっとワクワクしながら観てたんだけど、やっぱり分かってるね、ここぞというクライマックスで悪夢復活

 

呪われたホテル再臨

来ましたファンサービス!ほぼ全ての視聴者が待ち望んでいたであろう映像を見事に魅せてくれた。ニクい、ニク過ぎるぞ。

 

親父がパッカーンしてきた伝説のドア先輩も、お変わりないご様子で安心しました。ダニーボーイ分かってるよね? ここでやること分かってるよね? という全視聴者満場一致の願いも叶い、パッカーンからヒョッコリしてくれるダン。素晴らしい。

 

庭園迷宮も「無限城か?」って位の広さでパワーアップして復活。前作では追われる身だったから恐怖のバトルフィールドでしかなかったけど、このラビリンスウォールたぶんDEF/3000はあるな。こっからマジでキューブリック監督リスペクトの嵐。

 

おばぁちゃんも双子ちゃんもバーテンもホテルの中で元気にしてたようで嬉しい限り。てかダン、召喚士の才能あるからジョブチェンジした方が良いよ。このメンツならきっと魔王とか倒せる

この辺は観てない人の為にダイジェストだけで終わらせとこう。

本当に『シャイニング』ファン涎垂。
絶対に満足できるし、終わった後に愉悦に溢れます。

ドクター・スリープ(吹替版)

 

まとめ

さすがフラナガン監督。この一言に尽きる名作だった。噂では『心霊電流』も彼が監督になる可能性が高いんでしょ? もう既に面白いことが分かる。期待しかない。

モダンホラーの帝王ことスティーブンキングの伝説は続く。