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シャマランの系譜を継いだ『アス』は愛すべき変態ホラー映画

鬼才ジョーダン・ピール監督が2019年に発表した『アス』。そして映画ファンなら誰しもが注目した本作。観た結果を簡潔に述べると、同監督の『ゲット・アウト』を超えた的確さで人的恐怖を突いてくる秀作だった。

あらすじ

1986年の夏、アデレード・ウィルソンは両親とともにサンタクルーズにある行楽地を訪れる。ビーチに建てられたミラーハウスに迷い込んだアデレードは、そこで自分にそっくりな少女と出会う。ミラーハウスから戻った彼女はトラウマにより失語症となる。

現在、大人に成長したアデレードは失語症を克服し、夫と二人の子を持つ母になっている。ウィルソン一家はサンタクルーズにあるビーチハウスを訪れる。反対するアデレードを説得し、一家はビーチへ出かける。彼らはそこで友人のタイラー一家と落ち合う。長男ジェイソンはビーチで、腕から血を流しながら立っている男を見る。Wikipediaより引用

斜め後ろから迫るヌメっとした恐さ

アカデミー賞脚本賞獲った『ゲット・アウト』を観た時も思ったけどさ、ジョーダン・ピール監督はたぶん天才。この人の作品は面白い。何が面白いかって、完全に意識の外から金属バットで脳ミソ揺らしてくるところかな。ぬらりひょんでも防げない

中盤で物語が一気に”転”じる。導入部分は「おやおや、ホラーっぽいことやってくれるじゃない!」ってな感じで、ささやかな物理ダメージを負わせてくるんだけど。中盤からは全く別のダメージで恐怖にアプローチしてくる。というより、攻撃されたことに恐怖は感じても嫌悪感は感じないと言う方が近いかもしれない。バットで殴られたら「バット痛い!やめてよぉ!」ってなるじゃん? でもコンニャク巻き付けたハリセンでぶん殴られたら「??????…え?????え?怖…」てなるじゃん。それ(は?)

 

 

物語が進むほど疑問が増えていく

どんなサスペンスでも、観てると「あ~ハイハイ、こういう展開ね」ってある種の既視感を覚えるんだけど。この映画を観ている時、そんなこと思うことは無い。例えば、全く想像したことない事態が目の前で起こると人間は一瞬フリーズする。「あ…ふーん、へぇ~、ほぉーん」と頭の中が感嘆詞でいっぱいになった結果、処理落ちする。人間なんてそんなもんだ。俺も子供の頃、見知らぬババアの霊が笑いながら寝てる俺をのぞき込んできた時は「わり、俺死んだ」と冷静に何かに謝ったもんな

でも本作は、そんな謎の恐怖絨毯爆撃中でもしっかりとギャグを忘れてない。”Fuck Tha Police”という言葉が皮肉たっぷりにギャグとして用いられるが、このギャグの使いどころはここしかなかったと断言できる。というか、非常に不謹慎で血みどろなシーンでの現代的ギャグなので、笑えるのは狂人か映画玄人だがまさに「恐怖と笑いは表裏一体」これ誰の言葉だと思う? まぁ俺の言葉なんだけど。ちなみにこの監督、元コメディアンらしいんだよね。こういうところに作り手の人間的魅力って出るよな。伏字多い文章書く奴は俺の中で人間的魅力マイナス5ポイント。

 

 

最恐のアハ体験

本作に敬意を込めて、ネタバレが売りの俺だが今回はネタバレ無しでいこうと思う。だから、ここで語るのはこの作品の本質だ。

そもそもタイトル名の『Us』ってさ、”US”つまりアメリカ様そのものを現わしているって説も映画ファンの間では囁かれている。ここまで言えば何となく予想できると思うが、この映画の裏テーマは「持つ者と持たざる者」だ(と、俺は感じた)。

『ゲット・アウト』でも現代社会の闇を描いたってこともあるが、この監督の作品はどうしても”そういうことを暗示してるんだろうな”って目線で観てしまった(たぶん俺みたいに偏屈な考えを持たないで観たらもっと面白いぞ)。ある種ドッペンルゲンガーという化物を錯視させてくれたワケだけど、これは、一つ何かが違っていたら自分自身も貧困のドン底に居たかもしれないんですよ…ということを暗示している。反面、チャンスは絶対にあるという爆発的な閃きも与えてくれるから厄介。相反する絶望と希望(一番絶望)を同時に描くことで、自由の国アメリカを全力で皮肉った。これはそんな作品とも言える。



まとめ

最期までストーリーを観ると、全ての点が一本の線になって、ぐにゃんぐにゃん曲がりながら地平線の彼方に消えていく。ぶっとんだ解答の衝撃は、どこか『シックス・センス』のラストを想起させる。

シャマラン監督の系譜を継ぐ、間違いなく名作。