「hana-and-alice」タグアーカイブ

殺人犯の10人に1人は相手が好き過ぎて殺すという矛盾統計

『花とアリス 殺人事件』の、何とも言い難い名作オーラを感じつつも、つい最近まで未視聴だった俺を殴りたい。これは現代における愛憎の一例、と見せかけた友情物語だ。

史上最強の転校生、アリス。史上最強のひきこもり、花。二人が出逢ったとき、世界で一番小さな殺人事件が起こった。

石ノ森学園中学校へ転校してきた中学3年生の有栖川徹子(通称アリス/声:蒼井優)は、一年前に3年1組で起こった、「ユダが、四人のユダに殺された」というウワサを聞かされる。さらに、アリスの隣の家が<花屋敷>と呼ばれ、近隣の中学生に怖れられていることを知る。その花屋敷に住む「ハナ」ならユダについて詳しいはずだと教えられたアリスは、花屋敷に潜入する。

そこで待ち構えていたのは、不登校のクラスメイト・荒井花(通称ハナ/声:鈴木杏)だった…。

 

登場人物の軽快な会話が気持ち良い

「コラぁこの悪魔! 手羽先欲しいか? やらねぇよ~!」という仕草と発言ともに登校中にエンカウントした危険度AAAランクの男子生徒に対して「朝っぱらから鶏肉しゃぶりながら人の事罵りやがって、手前の方がよっぽど悪魔っぽいんだよコノヤロー」とアリスが言うシーン。この時俺は、この映画面白いじゃん…と確信した。ぶっちゃけこのシーンだけでも見て欲しい。西尾維新作品みたいな、登場人物の言葉のドッジボールで相手をジワジワと蔑むのが好きな人は、きっと俺みたいにココでこの作品にのめり込む。

 

次々と明かされる教室の秘密

転校してきたアリスは「1年前、教室で殺人事件があった」という眉唾の噂を耳にする。その死んだ男子生徒の座っていた席に座ったからという理由で、クラスメイトに遠巻きに避けられる流れ。調べていくとどうも「男子生徒は4人のユダに殺された」「死んだ男子生徒の名前はユダ」「ユダには妻が4人いた」と一見理解不能な暗号めいた情報だけが集まっていく。もう本当に出てくるキャラがブッ飛び気味で軽快(警戒)。そして、このサスペンス染みた展開で、どういうことだろう? と一瞬でも考えたとしたらもう最後まで観るしかない(そう、俺のように)。

 

詳細を調べようと、殺人事件のいきさつを把握しているという花の家に乗り込むアリス。ここでようやく花とアリスのゴールデンコンビが邂逅する(つまり、なんと作品全体の半分近くを消化するまで主人公の一人である花は出てこない )。

 

罵りながら深まる友情

ここからは正直、前半の導入部とは全く違う作品になる。花とアリスの一夜の大冒険編って感じ(やってることはただのストーキングとパパ活)。ユダの生死を確かめるべくユダの父親を追う2人。まず、この時の2人のすれ違いとアプローチの違いが面白い。花は理詰めで綿密な計画を立てるタイプ。アリスは行き当たりばったりだけど、その人当たりの良さから結局上手く行っちゃうタイプ。この2人が揃うことでの相乗効果が深みのある物語を生んでる。

アニメの世界にとどまらず、頭脳派タイプと行動派タイプが揃った時にお互いの良さが爆発的に向上するってのは良くある話だ。ヒーローにはサイドキックが必要だもんな。まぁ、花とアリスの場合はどっちも行動派だし、どちらも特に猪突猛進馬鹿ってワケではないのだが、要は長所の話。

 

車の下の告白

このシーンの殆どが花の語り(回想&罪の告白)で構成されてる。でもここがこの物語における謎の解答パートだ。ここで一気に全ての謎が解けていくのが最高に気持ち良い。花には最初から全部わかっていて、その上で、アリスを一日付き合わせていたというのもなんか面白い。っていうかユダの真相と最期の瞬間がかなり面白い(いや、アナフィラキシーは馬鹿にしちゃいかん! 俺もクマバチに首の動脈付近を3回ほど刺されたことあるけど、あれ本当に泡吹いて悶絶して糞尿垂れ流すからなッ)。

何よりも、ここで自分の感情を吐露する花の描写・鈴木杏の演技が絶妙なんだよ。アリスの声を当ててる蒼井優も、このシーン以降は少し敵意の無くなった声になって、感情を表に出した花に対して一気に心の距離が縮まったっていうのが表現されてる気がした。このシーンにこの映画の良さと、主題である花とアリスの全てが詰まっていると言っても決して過言ではない。この夜、ゴールデンコンビは誕生した。

 

友情のはじまり

「あたしのダチがアンタに話があるんだよ」ってアリスが言うシーン。いつのまにかダチになってる!  いいぞこういう友情物語は好きだ。一気に世界が明るくなった気がする。このセリフを聞くためにこの映画を観たんだ。

殺人事件の10%は痴情のもつれ・男女関係のトラブルで相手を殺してるって法務省のデータを見たことがあるけど、まさにそれを暗示しているかのような世界一小さい殺人事件でした。でもそれで深まる絆もあるから愛ってのは難しい(自分には愛なんてよくわからん)。

花とアリス殺人事件
※視聴用リンク

というワケで、『花とアリス 殺人事件』良い作品でした。

実は実写版は観てない(本作はロトスコープを用いたアニメ)んだけどね。そっちもファン多いからタイミングで観てみようと思う。本作で描かれた友情の始まりに対して、友情の終わりが描かれているみたいだからなおのこと楽しみ。