石田スイの『超人X』が巻き起こすムーブメントを見逃すべからず

漫画というのは、得てしてその時代を体現した文化になり得る。もちろん、そんな作品を生み出せるのは一握りの人間でしかないのだが、石田スイ先生は数少ないその実力を持ったクリエイターであると俺は思う。

高校生の黒原トキオと東アヅマは、「超人の仕業と噂される旅客機の墜落事故」の処理のボランティアを行う。事故では生存者が200名おり、機体の損傷が少ないといった奇妙な点があった。ボランティア帰りの2人は因縁の不良に絡まれるも、不良の様子は普段とは異なるものであった。超人となった不良に追いつめられたトキオとアヅマは、とある覚悟を決める。Wikipediaより引用

 

 

≪作品概要≫

『東京喰種』の石田スイ先生が描く連載作品として発表時から話題をさらい、20215月から連載開始となった本作。なんと背景・仕上げに至るまで一人で描いているというから驚き。「その分更新はマイペースになる」とTwitterで発言していたが、この美麗かつダークでポップなイラストを拝めるのであれば待とうじゃないか、いくらでも。

連載開始時から新境地を切り開いている感があった本作は、前述の『東京喰種』とはまったくの別モノと言っても良いと思う。ゲームのキャラクターデザイン・『ジャックジャンヌ』と紆余曲折あったからこその経験がさらに表現力を進化させたんだろうな と玄人ぶってみるが、要は面白い。とにかく面白い。盛り上げて欲しい所でしっかりと盛り上げるストーリー構成は流石だし、なにより苦悩している人間を描くのが上手すぎる。(残酷なまでに)巧すぎる

掲載はWeb媒体ながら漫画掲載誌として飛ぶ鳥を落とす勢いの『となりのヤングジャンプ』ということで、なんと1~最新話まで全部無料で読むことが出来る20228月現在時点)。同サイトにて反響があったため『ヤングジャンプ』にも出張連載するなど、ストーリが進むにつれて人気も鰻登りという、漫画好きにとっては今非常にアツい作品

ちなみに、漫画漬けの日々を送る俺は
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それではお待ちかね。『超人X』に関して独善的に語っていく。少しでも作品に興味を持って頂けると嬉しい。

 

 

ありふれた正義感

超人Xおい話の主軸を担のは2人の少年。それが上記あらすじにも記載されている黒原トキオ東アズマ。主人公であるトキオは幼少期にアズマと出会い、「一緒に悪い奴と戦おう」という正義感に溢れた盟約を交わす。それから街で”ワルモノ”を見つけると、ヒーローよろしく暴力で成敗するという自警団的な働きをしていくことになるーーーーー。というのが一話冒頭部分の要約だ。

一見すると英雄とは特別視されがちだが、このようにありふれた日常の、些細な出来事がきっかけで誕生する というのが『キャプテン・アメリカ』好きの俺の持論だ。子供ならではの悪意の無い「いじめ」だったり、親との「何気ない会話」だったり、人生の指針になり得るコトはいつでも「日常」から生まれる

 

 

嫉妬からの渇望

アズマに対して憧れがあるものの、心の片隅で嫉妬も併せ持つトキオにとっては、アズマの存在は目の前にいつも変えられない壁があるようなもの。それは幼少期に「俺だってライオンが良かった」と話している姿から察することが出来る。

けどそんな苦悩からすらもあっさり解放してくれるのが憧れの存在なんだよな。ハゲタカと馬鹿にされて落ち込むトキオに対して「ハゲタカってさ、世界で一番高く飛べる鳥らしいよ」なんて解答をしてくるアズマ。いや、普通に100点満点。 自由記述式の問題だったら先生が花丸付けちゃうくらいのベストアンサーだ。こんなに気持ち良いこと言われたら、そうなんだ!確かに! って、気持ちがポジ向きにUターンしてそのまま空にFly High

ということで、トキオは見事にハゲタカ好きになりましたとさ。超人に目覚めた時もその能力は獣化能力。まだ明確に定義されてはいないけど、超人の姿は「その人がなりたい姿」になるのではないかと作中で考察されていることから、トキオは本当にハゲタカに対しての憧れを持っていたことが示唆されている。

ここが面白いポイント。アズマから言われた一言がトキオの中で響いた結果、ハゲタカに対しての悪いイメージを羨望の対象へと転化させたことになる。でもこれって「ライオンの隣に居続けるために、ライオンにはできないものに憧れた」のか、「ライオンすらも飛び越えて、もっと上の存在になりたかった」のか、果たして心の奥底にあるものはなんなのか。今後の展開が楽しみになるポイントですね~。実際にファンの間で猛烈な盛り上がりを見せた23話では悪鬼羅刹にして八面六臂の活躍を見せたトキオ。もはや言葉はいらない。むしろ言葉では語れない。語り切れない。面白いから読んでくれ

 

 

苦悩こそが真骨頂

『超人Xの面白さはトキオが超人的な力(文字通り”超人”なのだが)を駆使して強敵を倒していく だけに留まらない。無論そこも面白ポイントの一つではあるのだが、昨今の”なろう系”のようにチート異能を使って無双するような、悪く言えば安直なストーリー構成ではないのが石田スイ先生の良い所だと俺は思う(“なろう系”が嫌いなわけではない)。そして最も真骨頂を発揮するのは、「苦悩している人間」を描く力だと勝手に思っている。『東京喰種』のカネキ君が拷問されてる姿を思い出してくれ。あれが一番分かりやすいが、人が苦しんでいる姿を、ちゃんと苦しんでいるように描いてくれるんだよ。当たり前のことを言っているように聞こえるが、これはちゃんと苦しんだ経験がないと表現できない。

というワケで、アズマももちろん苦悩します。『超人X』には主人公格のキャラクターが何人か出てくるが、基本的にはトキオとアズマの「ダブル主人公」である と、思う。トキオが一話で超人に目覚めるのに対し、アズマはずっと力に目覚めずに物語が進行していく。幼いころからずっと自分の陰に隠れてくっ付いていたトキオが超人に目覚めて、本当のヒーローのような異能を手に入れていく姿に焦りとも似つかない嫉妬を抱え、そしてそんな醜い自分に苦悩していくアズマの様子は必見。これだよ! これが見たかったんだよ! どうして苦しんでいる人間というのはかくも美しいのか、酒でも飲みながら今度俺も一人で自身の歪んだ美意識感覚に関して苦悩してみようと思う

 

 

超人が暗躍する世界

最後に、『超人Xの世界に登場してくる超人たちの一部をご紹介。かなりバラエティに富んだメンツが軒を連ねているが、設定によると凡そ1,000人に1人いるかどうか(だったと思う)。こんな容姿に変身できる人外が普通の人類と一緒に生活しており、闇に紛れて蠢いているし、それを一般人も「そういうものだから」と許容して普通に暮らしている。この世界観・設定は大暮維人先生の名作『バイオーグ・トリニティ』を思い出させるし、超人の姿はどこかギレルモ・デル・トロ味すら感じる、つまりみんな大好き狂った世界だ

この記事では主にトキオとアズマの心象と、そこに起因する2人の苦悩が堪らん! という点にフォーカスを当ててきたが。そもそも超人とは何なのか人間を超人化させる薬というものも出てくるし、意図的に超人を増やしている謎の組織が暗躍している様子。単行本3巻時点で既に物語が完成されている感があるのに、さぁここからようやく本編始まりますよ〜みたいな雰囲気が出ているので、メインのストーリーからも目が離せない。きっとまた『東京喰種』のように世の中を席巻することになると俺は確信しているよ。

≪まとめ≫

ということで、今回は石田スイ先生の『超人X』オススメだよ! という自己満記事を書かせていただきました。いや、もう本当に絵が素晴らしいんだよ。絵というか構図? 「どういう想像力あったらこんな動きを漫画化できるん?」という表現のオンパレードもはや1ページ・1コマを額縁にした芸術。でもしっかり漫画してるのが個人的にはツボです。

ではまた。

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