児童書に出てくる愛くるしい少年少女が、注射器の海に潜っていくような物語。満を持して、『メイド・イン・アビス』という大好きな作品のことを語りろうと思う。
ヒロインのリコは孤児院で暮らす探窟家見習い。アビスへの憧れが人一倍強い彼女は、母のような偉大な探窟家になることを夢見ていた。ある日の探窟で、リコは謎の存在に生命の危機を救われる。その何者かが放った熱線の跡を辿ると、そこには人間の少年そっくりのロボットが倒れていた。
リコはロボットにレグという名前を付け、孤児院の大人達の目を欺きながら、共に過ごすようになる。 レグが孤児院に入って2カ月が経つ頃、リコの母親であるライザの白笛と封書が地上に上がってくる。封書には、誰も見たことがない深層の生物の情報と「奈落の底で待つ」と書かれた紙が同封されており、その中にはレグに似たロボットのような絵も描かれていた。
ライザの封書を読んだ2人は、アビスの深層を目指すこととなる。リコは母親に会うために、レグは自分が何者なのか知るために…
もう設定からしてロマンしかない。冒険をする作品は数あれど、穴に潜っていく設定は何故か心をくすぐる。『放課後!ダンジョン高校』も似た設定だったが、あれは高校生活が中心だった。アビスはファンタジーに全振りという思い切った設定が◎。しかも可愛い子供の冒険、そりゃもう胸躍るってもんでしょう。
可愛い、とにかく可愛い。
ここで一つ名言しておこう。深界一層~四層までは死体を弄ぶ化物に襲われたり、リコの母親の師匠である不動卿こと”動かざるオーゼン”に出会って肉体・精神ともに虐められたりと、波乱が万丈しているものの、順調な滑り出しだ。読者並びにアニメ視聴者は、このまま多少の苦難を乗り越えながらも、リコが母親に出会い、レグは自分が何者なのかを知っていくだろうとタカをくくっていた。
そう、本番はここから先だ。
(心拍数的な意味で)
いったい何があった!? 大丈夫? なんかストレス溜まってない? と原作者つくしあきひと先生を思わず心配したのは俺だけではないハズ。順調に歩を進めていた幼気な少女の目からドス黒い血を噴出させ、挙句「きり…おとして…」だと? どうすれば良い?どうすれば君を助けられる? レグは見事に俺の気持ちを代弁してくれたよ。冒険と言うものが夢に溢れた綺麗ごとだけではないことはわかったよ。だからこの状況を打破する方法を教えてくれ! な展開。そう、これが『メイド・イン・アビス』。
※この後、マジで少女の腕を切り落とそうと試みるレグ少年の突貫オペが披露される。→皆大好きナナチの登場(可愛い、とにかく可愛い)。
今思えば、オーゼンの顔芸からホラー要素が追加されていた(リコの母親のライザから結婚を報告された瞬間より抜粋、。ここ、作中では笑うところですよ)。この時、俺たちは気付くべきだった…ここから先は人間じゃなくなった者しか踏み入れられない世界が広がっているということに…。
ちなみに、今のところ明らかになってる探窟のエキスパート・白笛(人類最高峰に度し難い人格の面々)は、殲滅卿・不動卿・黎明卿・神秘卿・先導卿の5人。かつ原作でも登場しているのは不動卿と黎明卿の2人だけ。わかるだろうか? まだ2人しか登場してないんだ。殲滅卿はリコの母親だから友好的(であって欲しい頼むから)ということを考慮しても、クレイジーメンがあと2人残っている。全く持って恐ろしい。ロアナプラ出身でも出会ったら小便漏らして逃げるレベルのX-MENがあと2人だ。
何故、俺がこんなにビビっているのか。
それは上記にも挙げた黎明卿に原因がある。
お待たせしました。前置きは終了。
ここからアビスの深淵部分が具現化したと言っても過言ではない、みんな大好き黎明卿ことボンドルドを紹介していきたいと思う。
劇中においては「大規模な虫害の未然防止」「それまで不可侵だったルートの開拓」「アビス深層での活動拠点の確保」「新薬の開発」そして「上昇負荷の克服手段を発見」などなど前代未聞の偉業をいくつも成し遂げており、人類のアビス攻略を一気に推し進めた正真正銘の偉人と言える。
彼自身その業績にあぐらをかくような性格ではなく、むしろ物腰のやわらかい子ども好きな博愛主義者。 現在までに登場した「白笛」の中では最も温厚な人物である。
おやおや、おやおやおやおやおや。温厚な人物なんて言い回し、可愛いですね、ウィキペディアさん。確かにボンドルドは誰に対しても紳士的な口調で、性格も基本的には温厚。しかも愛についても素晴らしい考えを有している。でも彼のクレイジーさはアビスの謎の探求という一点に対しての溢れんばかりの情熱にある。この情熱の前では世間一般の倫理観は月の裏側くらいまで吹っ飛ぶ。
「愛です。愛ですよ」を口癖に、より良い発明をするため、そして「アビスの夜明け」を見るためなら見知らぬ孤児も家族にするし、無償の愛を注ぐ。そして夜明けを見るため(夜明けとは)だったら、その家族の肉と皮を剥いで箱に詰め込んで身代わりに死んでもらう。だって家族ですからね。
皆大好きナナチもこの混乱具合(可愛いですね ナナチ)。それもそのハズ。ナナチ自身もボンドルドに拾われて大切に育てられた。だから多少なりとも(少なくとも途中までは)恩義を感じていたんだろうし、言うことを聞いていた。彼の「可愛いですね」に他意はなく、本当に心の底から家族として可愛いと思っているからこそ出てくる発言なのだが、本当に可愛いと思っている家族(と、その親友)すらも悪気なく、文字通りグッチャングチャンになるまで切り刻んで、実験して、廃棄するのが黎明卿の凄いところ。でも、そんなボンドルドにも可愛い可愛い一人娘がいた。
この記事のアイキャッチでも出ているが、リコと手を繋いでいる女の子、それがボンドルドの娘であるプルシュカだ。いや、もう、本当に良い子。多少世間知らずなところはありつつも、登場時には歳の近いリコとレグに対して仲良くなりたいと純真無垢な感情を向けてくる。そしてお父さん(ボン)のことが大好き。奈落の底に…オアシスがあったよ。きっと年齢的にリコ・レグ・ナナチと一緒に四人目のパーティメンバーとして冒険に加わるんですね。可愛い女の子3人に囲まれて旅ができるなんて、レグはプレイボーイだな! おじさん羨ましいぞ!
そんな夢を見る暇もなかった。
メヤァアァァ~!? プルシュカが箱詰めにされて何か体液零しちゃってるよ。どうしてこうなった? 夜明けのためです。以上。
自分自身に対して本当の意味で好意を持ってくれた(=完成した)ら、10年以上一緒にいた愛娘すらもコレ。でも大丈夫、夜明けへの礎となれたのですから。いや、どんな理屈? サイコパスって言葉すら生温いボンドルドの精神性に、読者の大半は畏怖というより畏敬の念を持ったことでしょうよ。こいつが根っからの悪人なら良かったよ(いや悪人ではあるが)、なまじ愛を持ってるから厄介であり、皆が大好きな狂人足りうる。それが黎明卿:ボンドルド。お判りいただけただろうか? その度し難さ。
※これは完全な余談だが、リコとプルシュカが”レグのちんちん”について話す極めて和みシーンがあるんだけどね。世間知らずのプルシュカは「ちんちんって何?」と、リコに聞くんだよ。「普段はこういう感じの…んで、レグがおっぱい見たりナナチを触ったりしてると…」と、絵を描いて説明するリコに対して「ああ!パパ棒のことか!」と反応するプルシュカ。おや?おやおやおやおやおやおや。なんでそこでパパ棒を連想した? 偉大な黎明卿が実験と称して家族の絆を深めすぎていなかったことを願うばかりである。
というワケで、色々と規格外な白笛。
その一端でしかない黎明卿のハイライトをお送りしました。
メイドインアビス
ペンダントトップコレクション 黎明卿の白笛
メイドインアビス コミック 1-8巻セット
※イッキ読みしたいドM猛者用
本当は作品に出てきた印象的なシーンについて、一つ一つ詳細な感想を語ろうと思ってたんだけど(特に、原作8巻の内容。良いよね!吐き気がするくらい!)。黎明卿がキャッチー過ぎて黎明卿特集になってしまった感ある。また9巻が発売されたくらいに書こうと思うので、それまでは既刊を読み返しながら映画のボン見て待とうかな、と。
リコ・レグ・ナナチ、そしてプルシュカの旅路がこれからも醜悪で悪夢のような混沌であっても、強く進んで行くことを願って。