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これから来るロボット時代を考慮すると『イヴの時間』は最高の道徳教材

2008年にネット上でドラマ形式で公開された『イヴの時間』。全6話を収録した完全版が2010年に映画版として発表されて久しい本作。文化庁にも評価され、OVA部門として多くの賞を受賞したこの作品は今観ても面白い。いや、5G時代到来間近の今だからこそ、面白い。

「あらすじ」

「未来、たぶん日本。“ロボット”が実用化されて久しく、“人間型ロボット”(アンドロイド)が実用化されて間もない時代。」

アンドロイドはそれと分かるようにリングを頭に表示し、無表情で人間に奉仕する。だが、ロボットが社会の様々な分野に進出して人間から仕事を奪い、アンドロイドに精神依存する「ドリ系」と呼ばれる人々が確実に増え続けており、それを危険視する「倫理委員会」が広報活動に勤しんでいた。また、旧式化したロボットが不法投棄され主を持たない彼らが野良ロボットとして徘徊することが社会問題となっている。

高校生のリクオは、所有するハウスロイド「サミィ」の行動記録の中に、命令した覚えのない行動を発見する。級友のマサキと共にGPSを辿って行き着いたのは「イヴの時間」という不思議な喫茶店だった。「人間もロボットも区別しない」ことをルールにしたその店では、誰もが人間らしく振る舞っており見た目では区別がつかない。彼らは思い思いにそこでの時間を楽しんでいた。リクオとマサキは好奇心から店に通うようになる。

やがてリクオは店でウェイトレスのナギに悩みを相談しているサミィと鉢合わせてしまう。Wikipediaより引用

 

 

簡単な概要

先に述べている通り、最初はネット上で公開されたドラマだった。でも多くのSFファン・アニメファンから高評価を得て映画化されたって感じ。構図というか、アングルの取り方がお洒落なんだよ。一応記述しとくと、東京国際アニメフェア2010・第9回東京アニメアワード優秀賞OVA部門受賞作品、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査員推薦作品だ。要するに意識高い系の秀作だ

俺が10年前にアニメ好き仲間と飲んでた時の話なんだけど、「最近面白かったアニメ映画のタイトルを同時に叫ぼう」って流れになって(いや同時に言う意味は全く無くて、酒カスの極みなんだけど)、いっせーの! で全員が全員『イヴの時間』って叫んだことがあった。そのくらい、良い作品なんだよ。

 

 

技術革新後の世界

食料自給率は80%というトンデモ水準の世界。きっとアンドロイドの有効活用によって、労働作業が効率化された結果なんだと思う。でも、”ドリ系”と言われてアンドロイドに人間として接する人を揶揄しているところを見ると、道徳の水準は今とさほど変わらないのかもしれない。

AIが自立思考を得ることで、人間に置き換わっていく過渡期を描いてるんだけどね。人間からしたら、仕事を奪われるし、人間よりも地球に配慮した存在のアンドロイドっていうのはアイデンティティの損失に繋がるし、癇に障るんだろう。そんな社会で、種族を超えて育まれる絆が描かれる

 

大事なのは内面に宿る人間性

はい! どれがアンドロイドでしょう! 何を隠そう、この中の半分以上がロボット。そう、不気味の谷を越えた工業製品ってのは外見じゃ人間と区別つかないんだよ。え?左上? うん、そう、外見じゃ区別つかないんだよ(てかサミィ2枠おるやんけ)。

物語の舞台になるのは主に「イヴの時間」っていう”人間とロボットを区別しない”喫茶店。超美人店主の凪さんが切り盛りする最高にお洒落なお店だ(代官山とかにありそう)。この店にいる時の登場人物の表情が良いんだよな。そしてそれが物語にも大きく絡んでくるからこれから観る人は要check。

 

誰もが”悩み”を抱えている

そんなお店に通うのは、アンドロイドと一線を越えたい人間人間のことをもっと理解したいアンドロイド、またはその両者が一緒に来店することもある。倫理的にはイリーガルなコンセプトなので、社会的には認められてないのか表には看板が一切出てなく、入口も普通に道を往来している人には全く分からないという心躍る仕様。なんだろうね、本作を観ていると主人公がこの店に入った時にワクワクするんだよ。演出が良いのも勿論だけどさ、この社会的に隠れた場所っていう設定が良いんだろうね

次第に常連客と仲良くなっていく主人公とともに、誰が人間で、誰がアンドロイドか明らかになっていくゆるふわ系ストーリー。なんだけど! カフェアニメとして観てもとても秀逸なんだけど!  大事なのは機会だろうが人間だろうが悩みを抱えているって点だ。この悩みを解決していく中での人間&ロイドドラマが最高に面白い

これは俺の持論なんだけどね。本作のようにアンドロイドが人間に限りなく近くなった世界…SFではこんなの全然近未来(っていうか現在)なんだけど、多くの文学作品では人間は人間に近づいたアンドロイドを嫌ってる。でもさ、これ、嫌う必要あるか? 高度に発達したテクノロジーは魔法と変わらない。なら高度に発達したアンドロイドも人間だろう。気持ち悪いって言うけど、自我が目覚めた時点で対等に接するべきだと思うし、お互いを尊重して生きていくことが出来るんじゃないのかな。まぁ、これは理想論だって言うのも理解していて、きっともっと抜き差しならない現実的な問題が色々と発生してくるんだろうけど。俺がこんな風に思っているのは色んなSF小説を読んでるから、思考がアンドロイド側に偏っているせいもあるかもしれない。でも、機械と人間が仲良くできる世界がきたらどんなに素敵なことなんだろうって、そういう風に思えるよ。本作を観ると。

実は漫画版もある。無論、良い。

 

「まとめ」

ファーストシーズンとして公開された既存の話が完結して早10年…。全体の雰囲気も良いし、”ロボット三原則”や、”不気味の谷”についてしっかりと考えられる本作は、5Gが本格的に生活に導入されるという今だからこそ観るべき作品だと思う。うん、むしろ教材だな。よし、国際派の石油王は学校作るだけじゃなくて生徒の分までDVDを買ったれ。

俺はセカンドシーズンをずっと待ってるよ。